悪霊〜下女の恋〜

悪霊〜下女の恋〜

悪夢。


悪霊 写真

『悪霊』と『マシーン日記』、二つの作品に共通するイメージといえば、もう、ほんとう、かんべんしてください、悪夢でございます、としかいいようがないのである。

『マシーン日記』を書いている頃、まだ煙草の自動販売機というものは24時間稼働していたのであって、その日の限界まで台本を書いた私は寝酒の友にと、午前四時に煙草を買いに出かけ、その際、狂暴なキチガイ(多分シャブ中)に「おまえかああ!」と追いかけられた。なにが「おまえ」なのかまったくわからなかったが、東京に出て来て以来初めて、といっていい出会い頭の恐怖だった。

一方『悪霊』を書いていた頃の私は激しい痛みを伴う首のヘルニアに始終悩まされ、頭は常に右側に傾いたまま、筆は遅々として進まず、実質的稽古時間は三週間という弱り果てた状況にあった。あれほど「痛い」ということについて考え続けたこともこれまた東京に出て来て初めての体験だった。

ともに、頭が悪くなるほどに、暑い夏の出来事だったのだった。

あれから、なにかと、いろいろ変わった。煙草の自動販売機は午前四時に買えなくなり、首のヘルニアは回復にむかいつつある。兄が死んで友達が死んで甥っ子が出家して首相が倍になった(体が)。演じる役者も今回変わった。ただ、広岡由里子と片桐はいりは変わらない。二人はこの二つの物語からドクドクと泉のように湧き出る悪夢の源であるからだ。これは変わりようがない。にしてもあれからなにかといろいろ変わった。スズキもなにかといろいろ変わった。

しかし、信じていただきたい。ビリーブ、スズキ。

悪霊 写真

私は「お洒落」と呼ばれるものと決別し、この世の悪夢を愛するあなたにこの身を捧げ、この夏、再びジタバタいたします。

(松尾スズキ)


日時
全公演終了しました。
2001年6月22日〜7月3日 (東京)
2001年7月9日・10日 (福岡)
2001年7月11日(大分)
2001年7月13日〜15日 (大阪)
場所
東京:本多劇場
福岡:ももちパレス
大分:県立芸術会館
大阪:近鉄小劇場
作・演出
松尾スズキ
キャスト
宮藤官九郎
大浦龍宇一
小島聖
広岡由里子